日常を笑うファインダー/AKIPINとSACHIKO(AKIPINの妻)

2020/05/17地上デジタルに対応する。/AKIPIN

日々、いろんな情報が効率よく流れてくるなぁと思う。何かを「知りたい」、と思ったとき、自分であれこれ試したり本を買ってめくったりする前に、ネットでちょろっと検索すれば、目次付きで文字に強弱をつけてきれいにまとめられたブログや、映像作品のようなyoutubeが、ほどよいボリューム感で必要なことを端的に教えてくれて、「知りたい」を満たしていってくれる。ぼくも大いに役立てさせてもらっている。特にうまくまとめられた情報にはたくさんの「いいね」がついて「シェア」されて、「知りたい」ことじゃなくても目の前にどんどん流れ込んでくる。

そんな2020年現在の「役に立つ」情報の波を横目に見ながら、ふと、2010年頃にぼくがWEB日記に書いていた文章を読み返してみた。当時ぼくは妻と二人暮らしで写真はしてないし、まだ日本にツイッターもインスタグラムもは来てないし、「まとめサイト」とか「Youtuber」なども存在しなかった時代。ぼくは、「シェア」されるためでも、有用な情報をお届けするためでもなく、自分が日常で経験し感じたことを書いてアップしていた。

2020年のいま読み返して、新鮮だなと思う。なぜなら、人が読んで、なんんにも「役に立たない」からである。



京都駅前のヨドバシカメラに行く。地デジテレビの購入を、ギリギリまで粘っていたのである。粘っていただけあって、ここに来てテレビの値段がますます下がり、今や32型が3万円台で買えるとも聞いていた。最近のテレビは、テレビ自体に録画もできると言うではないか。3万円台でそんなのが買えるなんてすばらしい。今のテレビがシャープの「アクオス」でデザインは気に入っていたし、妻もCMの印象は吉永小百合の「アクオス」が一番良いと言うので、まぁきっと「アクオス」を買うことになるんだろうと思いながら、テレビ売り場に着いた。すごい人の数だ。テレビの数もすごい。32型がでかい。思ってたよりもでかい。いくら値段が下がっているとはいえ、このサイズは要らないのではないか。部屋の印象をテレビに支配されすぎるのもどうか。妻と相談し、その一つ下のサイズ26型にしようとまとまる。あとは機能面だ。テレビ自体に録画できるのがいい。ハードディスクデッキは持ってないし。んでできればDVDやブルーレイをテレビ自体に入れて再生や録画ができるのがいい。昔で言う「テレビデオ」みたいな感じのが。自分で見て回ってきてもまったく探せないので、店員に声をかけ、希望を伝える。担当となった女性店員に案内されたテレビは、2つだった。少なっ。こんな無数にあるテレビの中で、ぼくの希望を満たすのは2つしかないのか。83000円と119000円。高っ。今ってテレビは3万円台で買えるんではないのか。ヤフーニュースで読んだし、実際ジャパネットたかたでも3万円台で売ってた。店員いわく、その値段で買えるのはテレビ自体に録画とかができないものだという。完全なる情報不足。率直に言えば早とちり。前もってぼくから「4万円もあれば買える」と断言されていた妻が隣で、残念そうな顔でぼくを見ている。残念の対象はテレビというより、ぼく自体にだ。ぼくも残念だ自分が。高いとはいえ、ハードディスクは持っていないし、デッキはデッキでけっこう高いし、それなら1台ですっきりすべての機能を使えるこのテレビを買うか。いやしかし、3万円台のやつに外付けハードディスクドライブをつけたとしたら合計金額がだいたいいくらになって、容量と記録時間は・・・そんなことを考えていると、妻はもう「これにしとこ」と、83000円を指さしている。ソニーの「ブラビア」だ。もう一つのは三菱のなにかだ。考えてみれば「ブラビア」はすごい。「ブラビア」という文字を見るだけで、矢沢永吉の声が聴こえてくる。少し巻き舌気味に「・・ソニーの、ブルぁヴぃア」。あれかぁ永ちゃんかぁ。自分のテレビが永ちゃんになるとは思ってなかったなー。そんなことを思いつつ、じゃああとはこれをどれだけ値切れるかやなーと考える。5000円くらい下がればよしとしよう。そして今まで聞いたことのあるさまざまな値切り方を思い出す。思案の結果、満を持して繰り出した。「75000円になるんなら今すぐ買いますわ」。
8分後、1円も値切れずレジに向かう。こんなに情けない結果になろうとは。とりあえず「無理です」と即答され、だんだん希望幅を狭めていったものの「その分ポイントが○%下がります」とか言われ、それって実質単にポイント使ってるだけで値下げちゃうやんとか気づくと頭がなんかねずみ色になり、妻に「もういいやん」と言われながらもなんやかんや粘っていると最終的に「500円くらいなら」と言ってくるので「ごひゃくえん?!」と若干声が裏返って、もう値段はいいですと言って買うことにした。未熟である。もともと、値切るなんて苦手なんである。レジに向かいながら、店員が「5年保証はつけますか?」と訊いてくる。そりゃあついていたほうがいいに決まっている。すると「ポイント5%でつけられます」。もともとポイントが10%ということなので、5%ということは4150円だ。購入決断時に説明を受け、8300円分貯まると聞いていたが、レジに向かう途中の段階でもう半分になるのか。なんだか腑に落ちない気持ちを感じながらも、しぶしぶ「つけます」と言う。次いで、まだレジに向かう道すがらで今度は「お支払は現金でしょうか?」と訊いてくる。「カードで」「ヨドバシのクレジットカードお持ちですか?」「いや、ないです」「あーそれでしたら、ポイントが2%減ってしまうんですよぉ」また減ると言う。今5%になったばかりではないか。さらに2%減って、残り3%か。「ブラビア83000円」の横に「10%還元!!」って書いてたのに、道すがらでどれだけ減らす?「ヨドバシのクレジットを作られましたら、2%減ったりはないです」なんと面倒くさいのだ。いったい何だというのだ。ポイントくれたり、取ったり、取ると見せかけてセーフ!的な素振りを見せたり。うんざりしたぼくはもうカードは作らないと言った。これ以上踊らされてたまるか。クレジットの暗証番号を押す指を、ちょっと雑に動かしてやった。おれはいらついているぞ。すべての客がおまえたちの思うままになると思ったら間違いであるぞ。指を雑に動かし過ぎて「確定」ボタンを押し損ねたかと思ったが、機械はピピッと反応し、なんとか押せていた。
テレビを受け取り、持って帰って設定して電源つけたらめっちゃ気に入った。ソニーの、ブルぁヴぃア。家に来た人からもし「なんでブラビアにしたん?」と訊かれたときの答えはもう決めていて、「いやー、やっぱなんやかんや言うてもソニーやで」。

(2010年)


 
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